ペットボトルロケット

創作物を咀嚼しては、ただ面白いとだけ吐き捨てた。

ぼくとかずのこ

 

『かずのこ』という一人の格闘ゲームプレイヤーについて

 

 

かずのこという単語を聞いて99.9%の人はニシンの卵の事を思い出すだろう。あるいはお節料理を皮切りに脳内で連想ゲームが始まり、正月を家族で過ごした楽しい出来事を思い出すのかもしれない。

しかし0.01%の人間はそのどちらでもなく別の物が真っ先に脳裏を過ぎる。それらの人々は2D格闘ゲームの世界に身を投じ、ゲームセンター、あるいは家庭用のネット対戦において戦いの日々に明け暮れたプレイヤーたちだ。

 

かずのこ。

それは僕らにとって一人の格闘ゲームプレイヤーの、2015年の世界大会で1500万の賞金を勝ち取った伝説的プレイヤーのハンドルネームに他ならない。

 

 

 

かずのこというプレイヤーを語る上で真っ先に思い浮かぶのが『ウメハラ』との関係だろう。

ストリートファイターⅣAEで当時ストⅣのメッカであった新宿東南口タイトーステーションで日々格闘ゲームの神とまで言われたウメハラと同キャラでタメを張っているやつがいる。そんな話を聞いたのが僕ら『動画勢』にとっての初めてのかずのことの出会いだった。

 

後にウメハラがかずのこのプレイスタイルについて一言で述べたことがある

 

「竹槍」

 

当時の格闘ゲームの情勢は一部のマニアックなプレイヤー間でのみしかテクニックの共有がされていなかった時代とは異なり、インターネットの普及した結果初心者から上級者まですべてのプレイヤーが簡単に情報を手に入れることが出来るようになっていた。

それらをフル活用し、知識、技術などを貪るように得てはそれをトレーニングモードで朝から晩まで練習し、理論武装して戦場に赴く。そんな中ウメハラとタメを張るトッププレイヤーの一人が何も知らずに突っ込んでくるのである。それは正しく軍服を身にまとい機関銃で武装した兵士に対して、恐れを知らずに突っ込んでくる無謀な竹槍兵の姿と一致した。ただし、一つだけ実際の竹槍兵の姿との相違点があった。この竹槍兵は恐ろしいくらいに強く、機関銃から発射される弾丸を全て回避しては相手の喉笛を裂いていた。気が付くと竹槍兵は世界大会で優勝し賞金1500万円をかっさらって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 「まだ若いんだし、これはチーム戦だ。君がすべてを背負いこむ必要はない」

 

 

社会人一年目。僕は18年間住んだ実家を出てアパートを借り、仕事に明け暮れていた。

酷く田舎だったので周りに何もなく、あるのは大型デパートと商店街だけというまるでペルソナ4の世界観そのもののような立地だった。唯一違うのはたまたま徒歩五分の距離にゲームセンターがあったことだ。

引っ越しや宅配便の手続きが面倒だった。という理由だけでPUMAのエナメルバッグに詰め込める物だけを持って身一つで引っ越してきた僕のアパートにはインターネット回線はおろか、PCやゲーム機一つもなかった。必然的に僕はゲームセンターに入り浸ることになった。

仕事を定時で終えて、そのままゲームセンターへと足を運ぶ。しかしながら何分田舎なため21時を過ぎると誰も対戦相手がいなくなってしまう。仕方なく僕も帰宅するが家にいてもすることがないため携帯電話をポチポチと無気力にいじり、眠たくなったら床に就く。それが当時の生活サイクルだった。

そんな中劇的な変化という程ではなかったが、その生活サイクルを少し彩るような出来事があった。それはゲームセンター店員であり、自身もまたトッププレイヤーの一人であるkaqnのブログを見つけたことだった。長年の動画勢である僕にとって僕が2D格闘ゲームにのめりこむ以前の情報には興味があったのだ。

相変わらず朝仕事に向かっては定時で退社し、そのままゲームセンターへと足を運んで21時には帰宅する。そんな生活サイクルだったが携帯を弄る顔つきだけは少し綻ぶようになっていた。

 そこにはかつてイノウエと名乗っていた頃の若かりしかずのこの姿もあった。kaqnとかずのこは同じキャラクターを使っていた時期があり、チーム戦にいっしょに臨んだことがそこには記されていた。

チーム戦で敗北し、まるですべて俺が悪いとでも言うような態度を取る若かりし頃のかずのこにkaqnは言う。

「まだ若いんだし、これはチーム戦だ。君がすべてを背負いこむ必要はない」

 

 

 

 

 

時は流れ自身の階級の上昇に伴い僕は定時で帰れるのが週に一回あるかないかというような生活を送っていた。

自然とゲームセンターへの足も遠のき、あれほど熱中していた2D格闘ゲームへの熱自体が冷めているように思えた。それは寂しいことのようにも思えたが大人になるってのはこういうことなのかもしれないななどと普遍的な物の考え方をする酷くつまらない人間になっていた。

それと当時に40人余りの社員の面倒を見る立場になっていた僕は少し、いやかなり病んでいた。40人の要望に応え、40人の不平不満に対処するには僕1人の人間の器では些か難しかった。攻殻機動隊において九世英雄が300万人の難民の意識と繋がり、その要望や不平不満に応え、指導者としての道を歩むのを公安9課の人間たちが褒めたのも納得がいく。僕は300万人どころか40人ですらキャパシティをオーバーしていまいそうになっているのだから。

そんな精神状態だったものだから今までの人生も無意味だったのかもしれないなどと考えるようになっていた。特に2D格闘ゲームに費やした時間は人生の浪費に思えて仕方がなく、その間にもっと近代思想であるとかビジネスマネジメントの本でも読んでおけばよかったなどといった考えが頭をついて離れなかった。

 そんな姿を見かねてだろう。ある日自宅で一人酒を飲んでいると上司が僕に電話をかけてきた。直接の上司ではなく階級で言えば二個程上の人間だった。その人は言った。

「まだ若いんだし、これはチーム戦だ。君がすべてを背負いこむ必要はない」

僕はその言葉を聞いたとき僕の網膜にはハッキリとイノウエの動かす聖ソルの姿が浮かんだ。知らない間に涙がこぼれ、次の瞬間僕は「フフッ」と口から息が零れるようにして笑った。思い返せばこうして自然に笑ったことすら久々だった。

「大丈夫か?」と僕の不自然なタイミングの笑いに上司は言った。

僕は「大丈夫です」と答えるとそれから二言か三言、言葉を交わしてから電話を切った。

電話を切った後、いつもと変わらないはずなのに辺りの静寂がやけに気になった。その静寂に耐えきれなくなった僕はPCを起動させるとギルティギアの対戦動画を見るべくyoutubeを開いた。

目的の動画を見つけ、ページを開いた。動画の読み込み中を示すくるくると回転する球体を見つめながら僕はつぶやいた。

 

 

「ヘヴィだぜ」

 

涙はいつの間にか止まっていた。