ペットボトルロケット

創作物を咀嚼しては、ただ面白いとだけ吐き捨てた。

シェパード医師とザ・ワールド

 

 

 

 

あまり本を読むイメージの無い同僚に冗談めかして「最近何か本読んだ?」と聞いた所「アクロイド殺しを読んだよ」と予想の斜めを行く答えが返ってきた。びっくりしている僕を後目に続けて彼は「最高に面白かったよ」と笑って口にした。素直に羨ましいなと思った。

 

アクロイド殺しはミステリ界でも屈指と名高いクソトリックを内包した作品である。

本読みが数多のアガサクリスティ作品の中からわざわざ「アクロイド殺し」を手に取るときというのはいわば近所で美味しくないと評判のお店に「まずいまずいと言われているがどれほどのものか確かめてみよう」といった気持ちである。

それ故に、アクロイド殺しを何の前情報も先入観もなく、まっさらな気持ちで楽しめる人間というのは非常に少ない。

ジョジョの第三部にもこれと同じことが言える。我々がある程度サブカルの知識を得たオタクである以上、DIOの存在を知ったときにはすでにザ・ワールドの能力までもおおよそ把握してしまっている。皮肉にも僕たちが数ある漫画からあえて「ジョジョを手に取ろう」と思った瞬間にはすでにジョセフと一緒になってDIOの能力について考察する権利を奪われているわけである。

 

勘違いされないように言っておくが僕はけしてネタバレ否定派ではない。

ブレイブストーリーを読んだときなんかは両親が離婚するのを前もって知っていたがためにスリリングに読めたし、他にも良い思いをそこそこしているからだ。

 

しかしながら僕も、アクロイド殺しの犯人が明かされたときに「そうだったのか!」と感動、ないしはアガサクリスティに怒りをぶつけたかったし、DIOの能力について真剣にジョセフと一緒に考察した上で、花京院が吹っ飛ばされるのを唖然として眺めたかったのだ。

これは、僕にアクロイド殺しを素直に「面白かった」と言えた運の良い友人がいて、それを見て羨ましがっている男がいた。ただ、それだけの話なのである。