ペットボトルロケット

創作物を咀嚼しては、ただ面白いとだけ吐き捨てた。

チンケでチープな名作ホラー

 

久々にPS2を引っ張り出して真女神転生3をプレイしていたら横で見ていた友人が「これって主人公が喋ったりするの?」と唐突に聞いてきた。しゃべらないと答えると友人は「そっか。じゃあ、主人公が何考えてるとかわからないんだね」と残念そうに言った。なるほど、そういう考えもあるのかと思った。ポケモン生まれドラクエ育ちイーグルランド住民は大体友達な、物心ついた頃から主人公の喋らないゲームばかりやっていた僕にとって、それは新鮮な感想だった。

 

 

そこでふとある考えが過った。

以前にプレイした「魔女の家」は相当完成度の高い「アクロイド殺し」なんじゃないか? と。

 

 

魔女の家はフリーのホラーゲームである。RPGツクールで作られたチンケなフリーのホラーゲームである。故に2Dドットで描かれた主人公は喋らないし、どんな危機的状況に陥っても顔色一つ変えない。仮に主人公がほくそ笑んでいようとも、腹を抱えて笑っていようとも我々の目には、緑色をした目が二つくっついた金髪の少女の無表情な顔が映るのみである。それ以外には何もない。だから、主人公がプレイヤーに対してどんな秘密を隠していたとしても我々は怒らないし、怒れない。彼女には語る術がないのだから。彼女には、チンケなフリーのホラーゲームのキャラである彼女には表情なんてものは与えられていないのだから。

 

しかし、アクロイド殺しのシェパード医師は許されない。彼には語る口がある。一人称の視点から事件を眺めているにも関わらず、彼は最後まで嘘をつく。だから我々は結末の瞬間に怒り、わめき、この作品はダメだと駄作の烙印を押すのである。

 

しかし、それはゲームだからこそ出来たものである。仮に何らかの形で魔女の家がノベライズ化やアニメ化などのメディアミックスを図ったとき、それは駄作の烙印を押されることになるだろう。故にけして魔女の家がアクロイド殺しよりも優れた作品だというわけではない。(ホラーの要素は省かせていただくが)作中に主人公の秘密を示唆するに十分なヒントは無いし、その秘密自体も後付けされたような、フリーのチンケなホラーゲームに相応しい大したことの無い内容である。しかしながら魔女の家がアクロイド殺しには出来なかった読者(プレイヤー)を納得させることができたというその事実にもまた、違いはないのである。

 

主人公が何も喋らない時、プレイヤーは「このキャラクターを自分の分身だと思って感情移入すればいいんだ」と勝手に思いがちである。意図したのかはさておき、魔女の家はそのプレイヤーの心理を逆手に取りプレイヤーを納得させた素晴らしい作品だと言える。魔女の家がフリーのチンケなホラーゲームであろうとも、そのことだけはハッキリとここに述べておく。